ぼくらの近代建築デラックス!

面白かったなあ。
未知の世界の新しい扉を開いた感がすごくて大満足。
いい本に出会えました。

『ぼくらの近代建築デラックス!』 万城目学・門井慶喜 (文春文庫)

何がいいって、案内人の二人が建築の専門家ではなく作家さんなところですよ。
ボキャブラリーが豊富で、蘊蓄のひとつひとつにもストーリーがあって、とにかく楽しい。

大阪、京都、神戸、横浜、東京、そして海の向こうの台湾まで足をのばした建築散歩。
それぞれが行きたい場所を挙げ、実際に行き、あーだこーだ言う、というシンプルな形式である。
服装がラフすぎるのは(特に京都の万城目さん)、“散歩”だからだな(笑)

大阪編の始まりの扉に、中之島の中央公会堂がでっかく写っているのが嬉しい。
やっぱり大阪人には身近な近代建築だから。
つい先日も、地階のレストランに行ったばかりだし。

辰野金吾という近代建築界の巨人による設計である。
赤レンガに花崗岩の白い帯が入る独特なデザインは「辰野式」と呼ばれ、大阪は「中央公会堂」、京都は「旧日本銀行」、神戸は「みなと元町駅」、東京は言わずもがなの「東京駅」と、聞けばだれもが、ああ、あれね!と分かる、万城目さん曰く「不動の四番のような存在」の建築家なのだ。

大阪の中央公会堂は、たった一人の市民の寄付によって作られた。
後に、老朽化により潰されるはずだったところ、市民が反対して、多額の寄付が集まり、改装して永久保存することに決まったのだそうだ。
企業や行政ではなく、市民によって守られ、愛され、そして普段使いされている。
最高じゃないですか。
この建築散歩の日も、オバちゃんたちのカラオケの歌謡ショーが行われていたそうだ。
「大阪の宝やと思いますね」と万城目さん。
たくさんの人によって建物が生かされていることに、感動する。

さて、この本の中で私が一番好きなのは中央公会堂だが、それ以外にも印象に残っているものがいくつかある。
まず、これはもう何と言っても、京都の「九条山浄水場ポンプ室」。
なんだこりゃ(笑)
辰野金吾と同期の片山東熊という宮廷建築家による設計である。
うっそうとした山の中に、ひっそりと建つ、派手な宮殿…。
目の前には、琵琶湖疏水…。
違和感満載、実に怪しげで廃墟感が漂う。
きっとドラキュラが棲んでいるに違いない。ポンプ室だけど(笑)

東京編では、「一橋大学兼松講堂」が異彩を放っている。
これも怪しい系(笑)
設計者の伊東忠太は、無類の妖怪好きで、なんと妖怪に関する著作もあるそうだ。
ところどころに妖怪チックな謎めいた獣のレリーフが施され、建物じたいも何やら異次元の匂いがする。
ネットで調べると、国の登録有形文化財であるとか、音響が優れているとか、ロマネスク様式で何とかいう賞をもらったとかいう情報が出てくるのに、この二人にかかると、

門井「いきなり期待に違わぬ面白さで先制パンチを喰らいました。」

万城目「よく政府が許したもんですよね。黒魔術のひとつもやりかねないようなこの雰囲気を。」

なんてことになるので楽しい。

あと、神戸の「湾岸ビル」。
人馬一体、新旧セット、上下合わせ技のインパクト、見た目のショッキングさがすべて。
という、たたみかけるような門井さんの解説に、どんだけ言うねん、とクスッとなってしまう。

それから面白いのは、台湾の、「宮原眼科」というお菓子屋さん。
名前のインパクトもさることながら、使われ方が実にパワフル。
「この店、近代建築であるということに全然甘えてないんですよ。」
と万城目さん。
これも、建物が使う人によって生かされている好例かもしれない。

台湾のポンプ室では、ポンプの一個一個に、なぜかパンダのぬいぐるみがくくりつけられていたな。


門井さんと万城目さんの楽しいやり取りの中に、時々ハッと心を動かされる言葉に出会うことがある。

大阪城は夕日が似合う。朝日が似合わないのは負け戦の城だから。
(「大阪城天守閣」)

石というのは、欠けるに任せるか、一から作り直すしかない、リニューアルのしづらい素材。
(「芝川ビル」)

非日常の存在になることで、存在を許されている。
(「大阪農林会館」)

近代というのは、明治から太平洋戦争の終わりまでを言う。
こんなにも個性の強い、癖のある、そしてお茶目な建築家たちが、日本の近代化を支えてきたのだと思うと、そのスケールの大きさに胸がいっぱいになる。
それは、翻って、彼らが存分に才能を発揮できる土台がちゃんとあった時代だったということだろう。

使う人とともに時代を越えてきた近代建築。

いやあ、楽しい一冊でした。


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posted by 夕芽 (ゆめ) at 23:05